6 本当によく働くな
本当によく働くな
これは、留学時の同僚のJの言葉である(もちろん英語)。
Jは敬虔なクリスチャンであった。週末を大切にし、日曜日には必ず家族で教会へ行き、礼拝をしていた。
また、薬物中毒や虐待などの理由で親元で暮らせない子供を預かり、我が子のように愛情を注いで育てていた。
夫婦ともに、まさに「隣人愛」を体現していた。
私はというと、単身であることに加え、生来の出不精から、土日も祝日もクリスマスも研究室へ行き、朝から晩まで実験をしていた。
今思えば、「手ぶらでは帰れない。」という焦りがあり、生活を楽しむ余裕がなかったことも一因だったかも知れない。
余談だが、研究所の警備員の間では、「あの日本人は研究所に住んでいるのでは?」という憶測が流れたらしい。
Jはそんな私に対し、こう言った。
「お前は本当によく働くな。」
(今も昔も)空気の読めない私は、所謂「勤勉な日本人」に対する褒め言葉ととらえ、「ありがとう」と答えた。
その時のJの複雑な表情は今でも忘れられない。
「週に1日は安息日」、「教会へ行って礼拝」、「クリスマスは家族と過ごす」等々、律法に従って生活するJの目には、私という人間は奇異に映ったことだろう。
いや、Jだけでなく、研究室の皆の目にもそのように映っていたに違いない。
その国の文化を理解せず、その国で生活するということは、恥ずかしいことだと知った。